NBNがAmazon Kuiperと提携。Starlinkはなぜ選ばれなかったのか?その背景を解説

2025年8月、オーストラリアの国営通信事業者である NBN Co は、米Amazonの衛星通信プロジェクト Project Kuiper と提携し、地域・農村部への新たな通信サービスを展開することを発表しました。

これにより、従来の「Sky Muster」に代わる新しい低軌道衛星(LEO)インフラが構築され、2026年中頃から本格的なサービス提供が開始される予定です。

なぜStarlinkではなく、Kuiperが選ばれたのか?

Starlinkは既に世界中で数千機の衛星を展開し、オーストラリア国内にも多数の利用者を持つ、実績あるLEO通信サービスです。それにもかかわらず、NBN Coが選んだのは、まだ運用前段階にあるAmazonのKuiperでした。

本記事では、その背景を考察しつつ、StarlinkとKuiperの違いを中立的に整理します。

提携の概要

  • 提携先:Amazon Project Kuiper
  • 開始予定:2026年中頃
  • 対象:地域・農村部の住宅や事業所 約30万戸
  • 現行のSky Muster衛星サービスは2032年までに段階的廃止予定

KuiperとStarlinkの比較

項目 Starlink Project Kuiper
運用衛星数 約8,000機(2025年時点) 初期試験衛星のみ、本格運用はこれから
通信速度 最大1Gbps(住宅向け250〜400Mbps) 最大1Gbps(想定値)
遅延 20〜50ms程度 同程度を想定
提供状況 すでに提供中(90か国以上) 未提供(2026年開始予定)
提供モデル 直販+一部パートナー 国営通信事業者などを通じた間接提供

考えられる背景と理由

NBN CoがKuiperを選んだ理由は明確に公表されていませんが、いくつかの要因が推測されます。

1. パートナーモデルの違い

Starlinkは基本的に自社による直接販売モデルを採用しており、NBNのような卸売パートナーとの協業には制限があります。一方、KuiperはNBNのような事業者を通じた提供を前提としており、政府系インフラとしての扱いやすさがあったと考えられます。

2. 政策的な判断

NBN Coは国が出資する政府系企業であり、単なるコストや技術だけでなく、政策的なバランスや国内通信インフラの管理体制といった点も重視されます。Starlinkのような外資単独による市場支配を避けたい意図もあったかもしれません。

3. Amazon Kuiperからの積極的な提案

Kuiperにとって、国家規模のパートナーを獲得することは商業的にも政治的にも大きな意味を持ちます。Amazon側が好条件(価格・独占供給・技術支援など)を提示した可能性も十分考えられます。

4. Starlinkの既存展開との住み分け

既にStarlinkはオーストラリアで個人向けに広く展開されており、NBNの手を介さず契約・運用が可能です。新たにNBN経由でのStarlink提供を始めるのは商業的に成立しにくかったという事情もあります。

今後の展望

今回の提携により、オーストラリアのLEO通信市場には新たな選択肢が登場します。Starlink一強だったこの分野に、競争と多様性が生まれることは、ユーザーにとっても大きなメリットとなるでしょう。

また、日本を含む他国においても、「政府主導の衛星通信インフラ」をどう構築していくかという議論に一石を投じる可能性があります。

まとめ

Starlinkがすでに展開している中で、あえてAmazon Kuiperと提携したNBN Coの選択は、技術・政策・戦略が複雑に絡み合った結果といえます。

この事例は、LEO衛星通信が「単なる技術」ではなく、「誰が握るか」「どう届けるか」が問われる時代に入ったことを象徴しているのかもしれません。

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