スターリンクのケーブルには中に使われている銅線の太さの単位としてAWGの表記があります。
日本ではあまり聞きなれない規格かもしれませんが、このAWGとは何なのか解説します。
AWGとは?
AWGとは「American Wire Gauge(アメリカ電線規格)」の略称で、電線の太さ(導体の直径)を示すための規格です。主に北米で使用されていますが、LANケーブルや通信機器など、グローバルに流通している製品にも幅広く使われており、スターリンクのケーブルにもこの表記が採用されています。
AWGの数字が小さいほど太い理由
AWGの特徴として、数字が小さいほど導体は太く、数字が大きくなるほど細くなるという性質があります。たとえば、24AWGよりも23AWGの方が太く、電気を流しやすいということです。
この数値の逆転した印象には理由があります。AWGは元々、金属を引き延ばして線材を作る工程の中で、 「何回引き延ばして作ったか」という製造工程の回数に由来しており、引き延ばし回数が多い(=細い)ほど番号が大きくなるという歴史的背景があります。
AWGと導体の太さの関係
AWGは直感的に分かりづらい一方で、導体の直径や断面積とは対数的な関係で定義されています。そのため、数値が1つ違うだけでも電気抵抗や電流容量に大きな影響を与えることがあります。
- AWGが小さい → 導体が太い → 抵抗が低い
- AWGが大きい → 導体が細い → 抵抗が高い
スターリンクのように屋外や長距離配線を伴う用途では、AWG23などの太めの線材が推奨されるケースも多く、実際の使用目的に応じた適切な番手の選定が重要になります。
AWG ↔ mm² ↔ JIS電線サイズ 対応表
AWG | 直径(mm) | 断面積(mm²) | JIS対応サイズ(参考) | 用途例 |
---|---|---|---|---|
20 | 0.812 | 0.519 | 0.5sq~0.75sq | 車載、DC給電 |
22 | 0.644 | 0.326 | 0.3sq | センサ配線 |
23 | 0.573 | 0.258 | 0.2~0.3sq | LANケーブル(Cat6) |
24 | 0.511 | 0.205 | 0.2sq | Cat5e、USB |
25 | 0.455 | 0.163 | ~0.18sq | 通信回線、信号線 |
26 | 0.405 | 0.129 | ~0.15sq | データケーブル |
28 | 0.321 | 0.081 | ~0.1sq | LED、I2C等 |
30 | 0.255 | 0.0507 | ~0.05sq | 極細信号線 |
AWGの直径を求める公式
AWG番手 n
に対する銅単線の直径 d を求める公式は次の通りです:
インチ単位:
d = 0.005 × 92(36 - n) / 39 [inch]
ミリメートル単位:
d = 0.127 × 92(36 - n) / 39 [mm]
ここで:
- n: AWG番手(数値)
- d: 導体の直径(インチまたはミリメートル)
例:23AWG の直径をミリメートルで求める場合
d = 0.127 × 92(36 - 23) / 39 ≒ 0.573mm
※ この式は理論値であり、実際のケーブルには許容誤差が含まれます。
AWG別の銅導線抵抗値(20℃・1kmあたり)
AWG | 抵抗(Ω/km) | 備考 |
---|---|---|
20 | 約33.6 | PoE++や車載電源向け |
22 | 約52.9 | よく使う |
23 | 約67.4 | Cat6e以上やStarlink給電 |
24 | 約85.0 | よく使われているが、距離が長くなると電圧降下のリスクがあるため注意が必要 |
26 | 約133.9 | 長距離給電では不適 |
電圧降下とは?
電線を長距離にわたって使用する場合、導体の内部抵抗によって電圧が少しずつ失われていく現象が発生します。これを電圧降下(Voltage Drop)と呼びます。スターリンクのような衛星通信機器では、電源装置からアンテナまでの配線距離と使用するケーブルの太さが、通信の安定性に関わる重要な要素となります。
電圧降下の計算式
以下の式を用いて、配線による電圧損失を計算できます:
ΔV = 2 × I × R × L
各項目の意味:
- ΔV: 電圧降下(V)
- I: 電流(A)
- R: ケーブルの抵抗値(Ω/km)
- L: 片道配線長(km)
ここで「2×」とあるのは、電源からの往復で電流が通る導体が2倍になるためです。
60m・AWG24ケーブルでの計算例
たとえば、スターリンクRev3で想定される最大電流を0.5Aとし、AWG24の銅導体ケーブル(抵抗値 ≒ 85Ω/km)を60m使用する場合、電圧降下は次のように求められます。
ΔV = 2 × 0.5 × 85 × 0.06 = 5.1V
このとき、電源装置側からの出力が57Vであれば、アンテナ側には次の電圧が届くと想定されます:
57V - 5.1V = 約51.9V
スターリンクRev3のシステムは比較的広い電圧許容範囲を持っており、安定動作の観点からもこの値は実用的な範囲内と考えられます。
設計時の注意点
- 実際の使用電流が設計値より小さい場合、電圧降下もさらに少なくなります
- スターリンクRev3では、供給電圧が57Vと高めに設計されており、電圧降下への耐性があります
- 施工環境や外気温、ケーブルの劣化なども考慮したうえで、設計には一定の余裕を持たせるのが理想です
PoE(Power over Ethernet)の規格と電圧要件
ネットワーク機器への電力供給方法として広く採用されているのが、LANケーブル1本でデータ通信と電力供給を同時に行うPoE(Power over Ethernet)です。
PoEにはいくつかの国際規格が存在し、それぞれ給電能力や最低動作電圧に違いがあります。特に電圧降下が問題となる長距離配線では、使用するPoE規格の特性を把握することが重要です。
規格 | 給電能力 | 最低電圧要件 | 備考 |
---|---|---|---|
802.3af(PoE) | 15.4W(最大) | 約44V以上供給が理想 | 電圧降下に要注意 |
802.3at(PoE+) | 30W(最大) | − | よりシビアな電圧管理 |
802.3bt(PoE++) | 60〜90W | − | 大電流でAWG23以上推奨 |

なお、スターリンクRev3では57V出力が想定されており、これはIEEEのPoE標準規格(802.3af/at/bt)とは異なる独自仕様である可能性が高いと考えられます。
そのため、通常のPoEスイッチやインジェクターとの互換性を前提とするのではなく、スターリンク専用の電源アダプターや構成に基づいた給電設計が必要です。導入に際しては、対応ケーブルの種類や長さ、接続方法なども十分に確認しておくことが推奨されます。
本記事は技術的な理解を深めることを目的としており、社外品ケーブルの使用を推奨するものではありません。施工にあたっては、可能な限りスターリンク純正ケーブルのご使用を強く推奨いたします。